「三島事件」は昭和史における大きな謎のひとつである。この謎を解明するには「檄文」の読解が重要なのである。兄・鈴木邦男(一水会顧問)の影響で、三島事件への関心を持ち続けてきたという著者。「三島」を政治的にではなく文学的に、特に西欧的な知の枠組みのなかで理解することが必要と考える。憲法改正を訴えて自決した三島だったが、その主張は一貫したものではなかった。昭和44 年10 月21 日、自衛隊の治安出動の可能性が消え、同時にそれまで彼が築き上げてきた決起計画がすべて水泡に帰した。皇居突入計画は、小説「英霊の聲」における昭和天皇への呪詛と関係する。当初の計画では、行動の世界のクライマックスは文学と密接にかかわるはずのものだった。その皇居突入計画が市ヶ谷の自衛隊乱入へと切り換えられたため、行動の世界が彼の文学の世界とは接点を持たないままに終わってしまったのであった。
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