問いで紡ぐ中学校道徳科授業づくり
田沼茂紀 編著/180ページ
道徳科授業における「自分ごと」の学びとは?◎道徳の授業で、「きれいな回答」は出てくるけれど、はたして本当に感じていることなのだろうか?◎教材を読んで、ただ既知の考え方をなぞるだけになってしまう 道徳科の授業で、このような悩みを持ったことがある先生もいらっしゃるのではないでしょうか。一体なぜ、道徳科授業は「形だけ」になりやすいのでしょうか?それは、子どもたちが実生活のなかで道徳的価値を学ぶプロセスと、道徳科授業でのプロセスが、ずれているからかもしれません。 子どもは道徳的価値を複合的に学ぶ子どもたちは、日常生活のなかで、すでに「道徳的価値」について多くを学んでいます。そのなかには、まだ「自分ごと」として受け止められていないことがあります。「友だちとはけんかせず仲良く過ごしましょう」「悪いことをしたら謝りましょう」??そうわかっていながら、実行できない。そんな経験を、多くの子どもたちはすでにしています。 一方で、現在の道徳科授業の多くが、1単位時間の授業で1つの内容項目を取り上げる形となっています。これらの内容項目は、上記の通り、実際にはそれぞれが複雑に関係し合って存在しています。だからこそ、それぞれの内容項目をただ別々に扱っても、子どもたちから「自分ごと」の道徳学びが紡がれることは難しいのかもしれません。 複数の内容項目をパッケージ化してユニットを組むそんなときに、ぜひ取り入れていただきたいのが、「パッケージ型ユニット」の道徳科授業です。「パッケージ型ユニット」の道徳科授業とは、異なる内容項目を取り扱う授業を2〜3単位時間組み合わせ(パッケージ化)、ユニット(小単元)をつくることで、子どもたちがより実生活に近い形で道徳的価値について考えを深めることができる授業のあり方です。 他者そして自己と問いに向き合い、「自分ごと」の答えを模索するしかし、ただユニットを組んだだけでは、子どもたちが語り合い、考えを深め合う授業になるかといえば、なかなかそうもいかないのが現実です。 そこで、ユニットを構成する各授業のなかで、クラスメイトや自分自身と対話し、課題を探求する「課題探求型授業」のプロセスを取り入れることで、社会通念や「きれいごと」から一歩踏み込んだ道徳学びが実現されます。 パッケージ型ユニットの全13実践を掲載!本書は、このようなパッケージ型ユニットの理論や課題探求型道徳科授業を用いた13実践を掲載しています。 もしかすると、「パッケージ型ユニット」「課題探求型道徳科授業」と聞くと、これまでの授業実践をすべて捨てて、やり方を一新しなければならないと考える方もいるかもしれません。でも実はそうではなく、これまでの授業実践にこれらの方法を取り入れることで、子どもが「自分ごとの問い」や納得解を紡ぎ、道徳的資質・能力を培っていくことができるのです。 あとがき 令和3年度より、中学校では道徳科改訂教科書の使用が始まります。「特別の教科 道徳」がスタートするにあたり、道徳科教科書と道徳学習評価の導入も同時に進行しました。その道徳科教科書編纂に初めて携わったときの感動を、著者は未だに忘れることができません。それまでの道徳副読本とは違う道徳科教科書、学習指導要領に則って編纂し、なおかつ教科書検定を受け、さらに教科書採択手続きを経て生徒たちの手に届けるという一連の感動を味わいました。そのときに去来したのは、「道徳指導上の特質によるただし書きの諸事情から特別とつくものの、これでようやく他教科同様に簡単には無視できない教科教育学の1 分野として認められたのだなあ」という感慨です。道徳科が他教科同様に教科教育学の一角に位置づけられることは、とても大きな変化です。なぜなら、道徳科教育学として成立するためには、社会科学的な視点から道徳教育内容学と道徳教育方法学の両面から体系化、組織化を図っていかなければならないということを意味しますから、心情重視型道徳授業から社会科学的な知見に裏打ちされた論理的思考型の道徳科授業をイメージしていかなければならなくなったことを物語っているからです。このような道徳科教育学という理論的発想はまだ端緒に就いたばかりですが、これから一つ一つの理論構築とそれを裏づける教育実践を積み重ねていくことで、いずれは大きく開花するものと考えます。本書で提案した3 つの道徳科授業理論、「課題探求型道徳科授業」、「パッケージ型ユニット」、「グループ・モデレーション」は、これから未来へと発展し続ける道徳科教育学への一里塚であると考えています。わが国の道徳教育が道徳科への移行転換によってますます充実・発展することを祈念し、「あとがき」と致します。