運転者  ディスカヴァー・トゥエンティワン

喜多川泰/著

中年にして歩合制の保険営業に転職し、三年目の修一。
しかし、なかなか思うように成果が上がらない日々を過ごしていた。

ある日、唐突な担当顧客の大量解約を受け、
いよいよ金銭的にも精神的にも窮地に追いやられてしまう。

妻が楽しみにしていた海外旅行計画はキャンセルするしかない。
娘は不登校に陥っているうえに、今後の学費の工面も難しくなるだろう。
さらに長い間帰れていない実家で一人暮らしをしている、母からの電話が心にのしかかる。

「……なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ」

思わず独り言を言ったそのとき、
ふと目の前に、タクシーが近づいてくるのに修一は気がつく。

それは乗客の「運」を「転」ずるという摩訶不思議なタクシーで――?