「記憶の河」を渡った旅人たち (半藤正夫・著)A5/245頁
人間の「記憶」は決して堅固な城ではない。「忘却」に絶えず襲われているからだ。だからこそ「記憶」は「再記憶」されなくてはならないのである。過去の出来事を書き留めてあるのが歴史だとするならば、それをどう受け止めて心に記憶するかはわれわれの問題だろう。それは歴史が記憶とともに生き続けるためになされなければならない作業だ。さて作家にとって「記憶する」ということはどういうことだろうか。本書ではホーソーン、フォークナー、そしてモリスンの三大作家が記憶と歴史の関わりにおいて、それぞれどのように過去と向き合っていたかを作品を通して論じている。それは作家が「記憶する」ことから何を創造しえたかと言うきわめてシンプルな疑問から発生したものでもある。「記憶の河」を渡って「歴史の森」へ行脚を続けた三人の作家たちがそれぞれたどり着いた世界をご一緒に考えていただきたい。そこには『文学』の世界に昇華された歴史があるはずだ。