漁師町の人たちとの交流を描く自伝的小説
――巨大なかじきであった.かじきは二度,三度と海上に躍り上った.嘴だけではなく,かじき全体が鋭い大きな刃物のように見えた.かじきは海を裂き,空を切った.かじきの怒りが,必死の抵抗が,空や海を圧していた.その迫力に,私の全身は震えた.――
東京の家屋敷を売り払い,母親とふたりで鴨川の漁師町に流れ着いた〈私〉.売れない画家であったが,手元のお金もさみしくなり,漁師の手伝いをして小銭をもらっていた.荒波にもまれる小船の上の生活は厳しいが,烏賊,蛸,鰤,鯖,鰹といった房総の恵みと,漁師たちとの濃厚な交流が心地よく,いつしかすっかりこの町のとりこになっていた.
――海人の生活が原始的であるが故に,却って私は強く惹かれるのであろう.――
著者自身「最も気に入った作品」と言い切る自伝的小説の名篇.
・近藤 啓太郎
・版型:B6
・総ペ-ジ数:198
・ISBNコ-ド:9784093525329
・出版年月日:2026/03/12