障害者受容の在り方を問う小児外科医の記録
人間の生命は,両親から一本ずつ染色体を受け継ぎ誕生しますが,染色体が三本に増えている病気がトリソミ-です.異常のある染色体の番号により,「13トリソミ-」「18トリソミ-」「21トリソミ-(別称・ダウン症)」などがあります.13トリソミ-の赤ちゃんは心臓の奇形や脳の発達障害があるため,半数が1か月ほどで,ほとんどが1歳までに亡くなってしまいます.本書は,小児外科医である著者が「地元の主治医として13トリソミ-の赤ちゃんの面倒をみてほしい」と近隣の総合病院から依頼され,朝陽(あさひ)君とその両親に出会うところから始まります.朝陽君の両親は我が子を受け容れ,自宅へ連れて帰り,愛情を注ぎます.そして,障害児を授かったことの意味を懸命に探ります.著者は朝陽君の自宅への訪問を繰り返し,家族と対話を重ねます.また,そのほかの重度障害児の家庭も訪れ,「障害児を受容する」とはどういうことかを考えます.やがて,朝陽君の母親は,朝陽君が「家族にとっての幸福の意味」を教えてくれる『運命の子』であることに気づきます.出生前診断の是非が問われる中,本書は「命を選ぼうとする考え方」に大きな一石を投じる一冊です.
【編集担当からのおすすめ情報】
2013年度 第20回小学館ノンフィクション大賞・大賞受賞作品です.
著者は現役小児外科医・松永正訓さんで,開業医として診療活動を行うかたわら,命の尊厳をテ-マとし,取材・執筆活動を続けています.
また,がんを克服した子どもたちの支援も行っています.
本書では,染色体の異常「トリソミ-」の乳児およびその家族と松永さんの交流が丁寧に描かれています(文庫化にあたって,文庫本のための最終章「それから一年を過ぎて」が加筆されました).
出生前診断の広まりにより,ともすれば「命を選ぶ」という考え方も生じます.本書はそうした考え方に大きな一石を投じます.
・松永 正訓
・版型:文庫型
・総ペ-ジ数:288
・ISBNコ-ド:9784094074161
・出版年月日:2024/12/06