きっかけはお客様からの依頼 福善刃物工業が剪定鋏の開発を手掛けるようになったのは今から19年ほど前のこと。あるお客様からの「他社よりもよく切れる剪定用のハサミが欲しい。」という依頼からはじまりました。
それまでは機械器具用の刃物を専門としていたため、剪定鋏を作るノウハウがなくゼロから作成を開始。ねじの締め具合やハンドルの外れなど、不具合が出ればその都度見直し、製品が作られていきました。
ねじは緩みすぎれば外れてしまうし、締めすぎれば刃が割れてしまう、その加減がもっとも難しいといいます。作り直してはお客様に試してもらい、何度も改良を重ねながら今の製品にたどり着きました。
お客様の求める「よく切れる」とは 刃物を表現する言葉に“切れ味”という言葉があります。
「味は人によって感じ方が違うもの。これは刃物の“切る”という感覚にも通ずるもので、“切れ味”は使い手それぞれに感じ方があると思います。」と、代表の福久さんは言います。
切れ味を良くするためには刃をより薄くし、なおかつ耐久性があり長く使えるものにするには、ある程度の強度が必要…このバランスをとることが鋏作りの難しさでもあります。
剪定鋏も採花鋏も長年使いこんで、その切れ味とともに手に馴染んでいくもの。だからこそ、使い手の負担を少しでも楽にさせたい、そんな福久さんの想いが感じられます。
(左)果樹剪定鋏180mm、(右)果樹剪定鋏200mm
オールステンレスの刃物 従来の剪定・採花鋏は鋼のものが主流。しかし、鋼は錆びやすく、樹液のつきやすい果樹剪定や採花ではお手入れが大変。福善刃物工業の鋏は高級刃物用ステンレス鋼を使用しハンドルやネジ・バネに至るまでオールステンレス素材です。ステンレス鋼の性能を引き出す加工を行う事で、錆びに強く切れ味が長く持ち、お手入れしやすいのも特徴です。
“病みつきになる”使い心地 実際にこの鋏を使用しているお客様の中には、一度使ったらやめられない、という方も多くいるそう。花屋で使用するため毎年注文されるというリピーターのお客様も。刃が丈夫なため、刃を研ぐ回数が少なく済むのも嬉しいポイント。
今まで1日に何度も何本も研いでいたところ、この鋏に変えることで研ぐ回数が大幅に減った、という果樹農家様の声もいただいたそうです。もちろん使い勝手の良さは抜群で、一般の方にも便利にお使いいただけます。
(上)果樹剪定鋏180mm、(中)果樹剪定鋏200mm、(下)園芸採花鋏215mm
用途別に、果樹用剪定鋏は大きさが大小2種類。小さい方は女性の方や、込み入った枝を切る際に役立ちます。大きい方は力が入れやすいので、女性やお年寄りの方でも太い枝を簡単に切ることができます。
園芸採花鋏は花の茎や細い木の枝など、断面をきれいに切ることができるため、花の茎が潰れず、水の吸い上げがよくなります。花を長く楽しむことができるのも嬉しいですね。ガーデニングや家庭菜園にも最適です。
手に取るとわかる使い手への優しさ 実際に鋏を触らせていただきました。持ち上げた瞬間、まずその軽さに驚きました。鋏の中心にあるストッパーは指一本で開閉でき、片手での作業もはかどります。ハンドルは軽く簡単に握ることができ、ハンドルを動かすバネの中にはウレタンゴム製のクッションがあり、握った時の衝撃もやさしく手にひびきません。
枝を切ってみると、気持ちのいいほど刃がスッと枝に入り、余分な力をかけることなく簡単に切ることができました。そのきれいな断面に、病みつきになる方の気持ちがよくわかります。
丈夫で長持ちするため、買い替えが減ってしまうのでは?思わずそんなことが気になってしまいましたが、「お客様の負担が減るなら」と笑顔で話す福久さん。使い手の気持ちを何よりも大切に考えて作られた鋏。
驚きの切れ味と軽さ、優しい使い心地を感じてみてください。
レポート:村瀬 恵里佳
フォト:小池 輝
編集協力:谷 亜由子
(2021年3月1日掲載)