手造り味噌のお店として、岐阜県美濃加茂市ではよく知られた〈浅野や〉は、70年以上も前に先代が「麹や」として開業したのが始まりです。
味噌も醤油も甘酒も、麹なくしては成り立たない発酵食品。
味や香りの決め手となるのが、麹の力です。
<浅野や>では先代から受け継がれた技法で、毎週のように麹を仕込みます。
自家製の室(むろ)には木箱がずらり。この中へ米や大豆を入れ、それらと麹菌を混ぜ合わせながら発酵させていきます。
麹が完成するまでおよそ3日間。
まずは麹菌をすべて手で丁寧に揉み込みます。水平に整えながら、発酵のムラがないように混ぜ合わせていくのです。
平置きの木箱はそれぞれ互い違いに。こうすることで空気を通しやすくしたり、時には密閉したり…と麹菌の種類や特徴によってその保管状態を細かく分けるのだそうです。
そして、何より大切なのは温度の管理です。
長年の経験を持つ二代目主人は、室に入っただけでだいたいの温度が体感で分かるというから驚き!
「麹は生き物だから呼吸をしている」と話す通り、生きている菌を扱うには細やかな配慮と手を掛けなければなりません。
常に温度を28°C前後に保つため、2時間ごとに室に入り、その温度を手と体を使って確かめます。時には換気扇を回したり、扉を密閉したり…まさに経験がものを言う職人技なのです。
手間暇かけて発酵させた生麹を原料にしてつくれらるのが、浅野や自慢の「塩こうじ」。
塩辛さのなかにも、口の中にほんのりと残る甘みが特徴です。
野菜を漬ければ即席のお漬物にと、塩の代替品としても重宝します。
また、肉質を柔らかくしたり、旨みを増す効果があるので、肉や魚料理にも相性抜群です。
発酵の鮮度を保つには、冷凍保存がおすすめです。冷凍しても固まらないため、そのままお使いいただけます。おいしく味わうことのできる期限はおよそ三ヶ月です。
レポート:児嶋 陽子 カメラマン:小池 輝
(2022年3月5日掲載)