内容説明
ナチに屈せず、毅然とした態度を貫いた文人の記録。大戦前から敗戦まで、文筆家・文学翻訳家の著者が「意図的傍観者」として、市井で過ごした、苦難と思索と創作の日々。詳細な原注・写真・図版収録。
目次
一九三三年
一九三四年
一九三五年
一九三六年
一九三七年
一九三八年
一九三九年
一九四〇年
一九四一年
一九四二年
一九四三年
一九四四年
一九四五年
著者等紹介
高田ゆみ子[タカダユミコ]
1956年大阪生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
本書は、「マルクス主義的活動」を理由にベルリン市立図書館司書の職を解雇された後、作家、英米文学翻訳家として活躍した文人が残した、貴重な一次史料だ。著者は共産主義の活動家でも前線の兵士でもなく、市井の「意図的傍観者」の立場を貫き、戦前から終戦までの12年間、ナチ政権と日々の出来事に毅然とした視線を向けてきた。
文学を語らい、室内楽を奏で、自然に親しむといった私的な記録だけでなく、新聞、ラジオ、人々の噂を冷静に分析し、戦況を注視し、為政者に対する失望と嘆き、彼らへおもねる同僚への憤懣を漏らす。ヒトラーやゲッベルス、御用学者に対する忌憚ない批判は見事に的を射ている。空襲の恐怖や食糧難も深刻だ。
著者は「戦争に向かっていく、いやな予感がする」と1933年11月に記し、大半の国民は政権に対して首を横に振り、政治家の言動に憤っているというのに、なぜ暴走を止められないのかと、もどかしさを感じている。そして、市民の密告者的性質、出世志向、打算的従順を指摘し、同調圧力や戦時統制の厳しさに多くが屈していく姿を描く。
読者は、今を生きる私たちが、戦前のドイツと似た状況に置かれていることを痛感するだろう。