内容説明
本書の目的は、企業の経営陣が、企業が生みだす経済価値を最大にするために、機関投資家と適切な対話を行う必要性について理論的な基礎を提示することである。「スチュワードシップ・コード」が2014年に公表され10年以上たったが、機関投資家の責務とされるスチュワードシップ(精神)やエンゲージメント(行動)とは何であるのかがわかりにくくなっている。本書では、企業の価値生産の主体は人的資本であり、そのため、経済価値の株主への分配を優先する企業規律が必ずしも適切でないこと、企業による対話の対象となる株主はいまや機関投資家であること、複雑化した価値観の中で利害関係者間の調整を熟議をもって解決するために、機関投資家のスチュワードシップ行動が不可欠であること、を論理的に示す。
目次
第1部 企業論:人的資本からのアプローチ(どのように論じるか;人的資本の価値形成と、企業への働き手の関わり方;「社会」としての企業;効率性の基準:経営規律、サープラス配分、社会価値;会社と株主の関係:人的資本からのアプローチではどのように考えるか)
第2部 スチュワードシップ行動の理論的基礎(企業の理論:企業における経営者、従業員、株主;社会からみる「企業の理論」への拡張;投資家のスチュワードシップ行動の必要性)
第3部 エージェンシー理論から新しい対話のパラダイムへ(スチュワードシップ行動における機関投資家の種類と役割;Multiple‐objective型の意思決定に整合的な経営論;熟議におけるボードの役割)
第4部 人的資本に関わる新しい対話のパラダイム(人的資本に関わる機関投資家のエンゲージメント;機関投資家と経営者との人的資本に関する対話;熟議に求められる人材重視の開示)
著者等紹介
江口高顯[エグチタカアキ] 
東京大学理学部(1976)。同理学系研究科修士(科学史)。ペンシルバニア大学大学院修士(経済学)。米系運用会社にて2003〜2012年に議決権行使を担当
神山直樹[カミヤマナオキ] 
アモーヴァ・アセットマネジメント株式会社 チーフ・ストラテジスト。一橋大学経済学部(1985)、ニューヨーク大学MBA(1990)、シティ大学Ph.D.(1998)。大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事、2015年より現職。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト。証券アナリストジャーナル編集委員、一般社団法人スチュワードシップ研究会運営委員
黒田一賢[クロダカズタカ] 
モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 日本サステナビリティ・リサーチ・ヘッド。青山学院大学経済学部(2003)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)環境政策・規制修士コース修了(2008)。2003年岡三証券入社、英国の調査機関EIRIS(現Vigeo Eiris)、Climate Bonds Initiative、株式会社日本総合研究所を経て、2020年三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。2024年Institutional Investor All−Japan Research PollにてESGリサーチで2位。CRUF(Corporate Reporting Users’ Forum)Japa、メンバー。青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター主催「ファンドマネジメント講座」ESG投資の実務コースにおいてESG評価機関の取組みについて講演実績
槇野尚[マキノナオ] 
Kaname Capital パートナー、ヘッド・オブ・リサーチ。2012年東京大学法学部卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券にて株式調査を担当する。2014年からみさき投資でエンゲージメント投資に携わり、2022年に米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。同年より現職
村澤竜一[ムラサワリュウイチ] 
タワーズワトソン株式会社 経営者報酬・ボードアドバイザリー ディレクター。明治大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、ファイナンス修士(MBA)。国内株式ファンドマネジャー業務に従事後、KPMGジャパンにて機関投資家向けアドバイザリーサービスの立ち上げに参画。アセットマネジメント・セクターのリーダーとして、資産運用とコーポレートガバナンスの専門サービスを主導。2024年より現職。取締役会、指名・後継者計画、経営者報酬コンサルティングなど、コーポレート・ガバナンス全般を包括的に支援
山本功[ヤマモトイサオ] 
起業投資株式会社代表取締役。早稲田大学政治経済学部(1981)、ハーバード・ビジネス・スクールMBA(1986)。野村総合研究所、メリルリンチ日本証券などを経て現職。日清オイリオグループ株式会社社外取締役、Scenera,Inc.(米国)社外取締役。東京大学経済学部非常勤講師(経営財務I担当)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
企業の価値生産主体は人的資本であること、企業の対話相手は個人株主から機関投資家に変化したことを踏まえ、機関投資家のスチュワードシップ行動の必要性を論理的に示す
【目次】