内容説明
『源氏物語』は、11世紀初頭の誕生直後から大ベストセラーとなり、当時の人びとは筆写して読み継いでいった。200年を経て鎌倉時代には数多くの伝本が流布したが、書写の回数が増えれば誤写も発生し、古語となってしまった箇所は理解されず、本文は混乱してしまう。どれが紫式部の原典に近いか不明という状況で、本文を正したのが河内家の「河内本」であり、藤原定家の「青表紙本」であった。室町時代末には定家本が決定版とされ、実物は不明となり、その写本で『源氏物語』本文が読まれ続けてきた。2019年、定家本「若紫」巻が発見された。現存する定家本といま読む物語の本文とはじつは細部で微妙な違いが生じている。定家本が絶対視されたのはなぜか。物語はどんな文化を生み出したのか。書写という営みを通して人びとが伝えた千年の歴史をひもとく。
目次
1章 新発見『源氏物語』「若紫」
2章 『源氏物語』執筆の背景
3章 『源氏物語』の書写はどのようになされたのか
4章 『源氏物語』の読者の広がり
5章 中世の『源氏物語』の本文校訂への動き
6章 藤原定家の本文作成
7章 御子左家の「青表紙本」の相伝
8章 「河内本」と「青表紙本」との対立
9章 「青表紙本」の再発見と流布
10章 「大島本」の本文の意義
著者等紹介
伊井春樹[イイハルキ]
1941年愛媛県生まれ。大阪大学名誉教授。広島大学大学院博士課程修了。文学博士。大阪大学大学院教授、国文学研究資料館長、阪急文化財団理事・逸翁美術館長を経て、現在は愛媛県歴史文化博物館名誉館長などをつとめる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
『源氏物語』は誕生直後、奉呈本作成の一大プロジェクトが挙行、その過程で原作本は失われた。だが人々が写本を作り続けたために、物語本文は今に伝えられている。その中で、なぜ定家の「青表紙本」が決定版となったのか。物語を伝えた人々の姿を照らし出す。