内容情報
本書『北欧福祉国家と国庫補助金―国庫補助金改革とフィンランド福祉国家の変容』においては、もっぱら国庫補助金(国庫支出金、以下、国庫支出金とする)を取り扱い、1980年代後半から2022年度までの国庫支出金の変化と国―地方の財政関係の変容、地方財政調整について分析した。さらに、このような分析を通じて、フィンランド福祉国家の変化の内実を明らかにしようとしたのである。
本書を発刊した最も大きな理由は、2023年1月に実施される予定の保健医療福祉改革(SOTE改革)によって、国庫支出金制度が大きく変貌することになるだろうからである。SOTE改革は、これまで国―自治体の1層制だったフィンランドの地方自治のシステムを大きく変えるもので、自治体の上にアルエと呼ぶ上位自治体を新しくつくり、これまでの自治体に代わってアルエに保健医療福祉を一手に担わせることを意図した改革である。事務事業の上部移管が行われるのである。SOTE改革は保健医療福祉のサービス供給改革であるが、地方自治制度の大幅な再編をともなう改革でもあるのである。
フィンランドの自治体歳出の5割程度を占める保健医療福祉がアルエに移管するため、自治体から人員、施設、設備等のアルエへの移動が進み、これまで果たしてきた自治体の役割はかなり縮小することになるだろう。さらに、自治体は地方所得税収入の6割超と法人所得税の自治体取得分の多くを失う見込みである。自治体にこれまで交付されていた国庫支出金も大きく縮小する。現時点では、SOTE改革における財源問題がまだ見えてこない部分があるけれども、新たに2層制の国―地方の財政関係が構築される中で、まったく新しい国庫支出金システムがつくられることになるのは間違いないのである。そこで、1980年代から2022年度までの国庫支出金制度の変遷と内容、特徴を総括し、フィンランド福祉国家との関連の中で論ずることが必要だと考え、本書の出版に至ったのである。さらに、近い将来のフィンランドの国−地方の財政関係や、新しい国庫支出金制度を展望するためにも、本書の出版が必要だと考えたのである。