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最年少のタイトルも偉業だが、最年長の初タイトルに心が動くのはなぜだろう
2019年9月26日、八大タイトルの一つ、王位戦で、将棋界にまた一人タイトルホルダーが生まれた。
木村一基九段。年齢は四十六歳。最年長にしてプロ入り後最遅、挑戦回数も最多の初のタイトル奪取に「中年の星」と騒がれた。まさに座右の銘である「百折不撓(ひゃくせつふとう=何度失敗してもくじけないこと)」を体現したような快挙だった。
藤井聡太七段はじめ、若い新星が次々と現れる棋界にあって、年齢による衰えは誰もが通る道。木村九段も例外ではない。「将棋の強いおじさん」「千駄ヶ谷の受け師」「解説名人」など数々の呼び名があり、人気は高いが無冠で、「もうタイトルは無理では」と思われていた木村九段の、衰えるはずの年齢での王位獲得。その長すぎる道のりを、東京新聞で「盤記者」として数々の取材や連載執筆をし、木村王位の多くの涙にも立ち会ってきた樋口記者がまとめた。
本書は「私の知らないような話や、ああそうなのかと記事を読んで初めて分かったところもあって、自分の話だというのに面白く読みました」という木村王位本人はもちろん、対戦棋士や関係者にも丹念な取材を重ね、書籍化の要望も多く寄せられた新聞連載「百折不撓の心 王位・木村一基」に加筆、再構成し、「王位獲得記念トークショー」「第六十期 王位戦七番勝負棋譜」も収録した。