内容情報
社会学者が50歳で迎えた「がん」との出会い。
辛さと怖さに日々向き合っている「あなたの心」に触れたくて
本書で語る「私」は、ドクターファンタスティポ★嶋守さやか。職業は大学教授、バツイチ、74歳になる元気な母親と二人暮らし。拙著『孤独死の看取り』と『寿ぐひと』において、生きることと死にゆく人の現場での語りを綴りつつ、研究に奔走してきた。そんな「私」が50歳、もうすぐ閉経を迎えようという直前に子宮と卵巣の全摘手術を受けたことからこの物語がはじまる。
大量の不正出血、ひどい目眩や月経痛も、ただの更年期障がいだと甘く見ていた。しかし「子宮腺肉腫」が見つかり、「抗がん剤治療を受けなければ5年以内、受けても八年以内に死に至る病だ」と宣告されて治療を受けることにした。点滴を受けるたびに副作用に苦しんだ。治療代の支払いに追われるなか、突然、家の修繕の必要が生じ、その支払いにも悩むという日常が過ぎていった。
がんは個人の病である。個体差、個性、生活などが異なれば、治療法や副作用、痛み、苦しみの感じ方は違う。しかし、この病についてはステレオタイプ的な認識が世間にある。そんな認識を改めるために、現在、「生きるがん教育」が小・中学校で行われており、高校でも新年度よりはじまる。「私」(治療完了し、経過観察中)が体験したように、がんは必ずしも死ぬ病ではないし、栄養バランスのとれた食事と運動習慣で予防できる。「がん」とともに生きる人への理解を深め、自身の考えを伝達しあう対話力を備えた奥深い知性が求められているのだろう。それを証明するように、高校から講演の依頼もあった。
二人に一人が「がん」になるという昨今でも、抗がん剤治療は怖いと思うものだ。自慢話にも武勇伝にもならない、子宮体がんの治療の辛さと枯れゆく女性らしさに直面する「私」の語りが綴られている本書を通して、「私」と同じく「とても怖い」と感じていらっしゃる誰かの心に「私」は触れたい。(しまもり・さやか)