内容情報
食品会社は、消費者の食の安全に関して微生物の汚染事故が起こった場合には、食中毒菌か否か、カビではカビ毒産生菌か否かを早急に判断し情報公開しなければならない。そのためには、迅速に菌種同定、並びに菌株識別を行う必要がある。しかしながら、従来の同定法、菌株識別法では、同定に数日かかり、高コストで作業者に高い専門性が必要であり、迅速に多検体の試料を菌種同定し菌叢を解析することは困難であった。そこで、迅速に微生物検査ができてランニングコストも安く、高い専門性を必要としない、MALDI-TOF MS微生物検査・同定に注目が集まっている。
本法は、MALDI-TOF MSで得られたスペクトルパターンを、データベースに格納されている菌種名既知のスペクトルデータのパターンと照合し同定を行うものである。
同定の確率と精度を上げるためには、菌種名既知のスペクトルデータ数が多いこと、さらに同一菌種の多数の菌株のスペクトルデータを取得してデータベースの充実を図ることが重要である。
このデータベースの充実を図るため、大学と食品企業を中心に13団体で MALDI-TOF MS微生物同定コンソーシアムを結成してデータベースの拡充と微生物同定についての勉強会を実施するなど精力的に活動を行っている。
2023年8月にMALDI-TOF MSの微生物同定の食品産業での最新の活用事例について紹介する第1回のシンポジウムを開催した。多くの方に参加していただき、大変盛況であり、多数の参加者から発表に関する詳細な資料提供の要望を受け、参加者の関心の高さが窺えた。
そこで、このシンポジウムの内容を中心に、食品産業以外の実際の産業界での運用事例として医薬関連企業での活用事例および本コンソーシアム活動の主要な成果についても情報提供する目的で一冊の本として纏めることとなった。本書が皆様の有害微生物についての研究、原材料、製造環境および製品の品質管理の一助となれば望外の幸せである。
(「発刊にあたって」より一部抜粋)