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『イネつくりの基礎』の復刊にあたって
この本で稲作の勉強をした、という農家は多い。改めて読みなおしてみて、これはまさしくイネつくりの基礎本として優れた名作だと確信し、次世代に伝えたいと復刊することにした。
本書の発行は昭和48年(1973年)、本書の誕生には2つの背景があった。
一つは、昭和30年代後半から40年代前半にわき起こった「片倉稲作」を中心とする、農家による全国的な増収技術の展開である。元肥重点であとは水管理ぐらいしか手の打ちようがなかったイネつくりに対し、山形の片倉権次郎さんは、元肥を減らし、穂肥、実肥と追肥していく追肥重点のイネつくりで安定増収を実現し、地域で注目されていた。イネの生育過程を前期・中期・後期の三つに分け、ポイントとなる時期(出穂30日前)をすえて技術を仕組んでいく片倉さん。農文協の編集部では、片倉さんの田んぼに何度も通い、片倉さんのイネの見方を丹念に聞き取り、月刊誌『現代農業』で連載を組み、それをもとに単行本『誰でもできる五石どり』を発行した。その反響は大きく、地力が低く低収の田んぼでも、みごとに五石(750kg/10a)取りを達成し、国を挙げての米増産の動きを支えた。
この新たな増収技術の展開のなかで、農家はイネの見方・生育診断の方法と、条件に合わせて栽培を仕組んでいく技術を身につけ、それは、その後の田植機稲作を支える力になった。
もう一つの背景は、イネの葉・茎・根などの形態・構造と働き、光合成のしくみと栄養生理、水田土壌の特質など、増収にむけたイネ研究の大きな進展である。農文協ではこの時期、『イネの生理と栽培』(岡島秀夫著)、『イネの科学』(津野幸人著)などの研究者による本を発行した。
以上の2つの背景、つまり農家の経験・蓄積と研究の成果をもとに、「そのなかから、イナ作栽培の基礎知識として必要なものを抜きだし、実際技術と基礎科学との総合化を試みたのが本書」である(「まえがき」より)。こうして、耕うん・代かきから栽培管理まで、イネ研究の成果を活用しながら、農家が工夫してきた技術・作業の意味と大事なところを提案し、さらには粘土質・砂地などの土質や地力、寒地・暖地などの気候条件、品種の早晩性など、条件のちがいをどうみてどう対応するかまで、応用がきく実践的な基礎本が誕生した。基礎とともに、「代かきはていねいにやってはいけない」「元肥少肥が原則」「密植には限界がある」「生育初期は小柄に育てる」「中干しに注意」など、今に通じる提案も随所にある。
「まえがき」では、「イナ作技術も発展するでしょうが、イネのとらえ方、増収の原理に変わりはありません。農家自らが創造した四十年代の技術は、これからの土台になるものと考えます」と述べている。先輩たちが築いてきた土台を受け継ぎ、これからのイネつくりを楽しく取り組むために、この『イネつくりの基礎』を役だてていただければ幸いである。