内容情報
臨床現場で肝生検を行う際の指針となるようまとめた,日本肝臓学会編集の公式テキスト.肝生検を安全に行うための基本手技から,各種肝疾患における肝生検を用いた診断,病期分類,治療効果の判定,予後予測の判断を解説.肝生検だけではなくその他の非侵襲的検査法の有用性についても触れ,各種検査を肝疾患の診療にどのように活かせばよいかがわかる一冊.
【刊行にあたって(序文)】
肝生検は肝疾患の臨床的な診断を確定するために行われます.ときには,肝生検により臨床的な診断が変更されることもあります.肝疾患の診療を行ううえで,極めて重要な手技そして最終的な診断法といえます.
肝臓の一部を細い針を用いて採取し,それを病理学的な診断に供すること,これは歴史的には1883 年にドイツのポール・エーリッヒが糖原病の診断のために行ったのが最初だといわれています.20世紀初頭には,致死的でない(したがって病理解剖ができない) ウイルス肝炎が戦場で蔓延し,その診断を行うために肝生検が急速に普及しました.当時はもちろん肝炎ウイルスの診断法はありませんし,ALTなどの測定法すらありませんでした.その後,肝疾患領域においても,様々な血液検査・画像検査法が導入され,多くの疾患が必ずしも肝生検という方法を用いなくても診断できるようになりました.しかし,今でも病理学的な診断を必要とする場合は,必須の手技になっています.
一方,肝生検にはある一定の侵襲性を伴いますから,施行にあたってはコストとベネフィットを考える必要があります.診断における必要性を十分に吟味すること,そして安全性に留意することです.本書は,日本肝臓学会が「肝生検」について,その概要,意義,安全性,そして疾患における各論についてコンパクトにまとめたものです.古くからある診断法であるにもかかわらず現代的な視点からこれを解説した類書がなかったことから,2020年に学会としてのガイドを作成することを決定しました.黒崎雅之委員長のもと「日本肝臓学会 肝生検指針作成ワーキンググループ」を立ち上げ,4年の歳月をかけて完成したのが本書です.ぜひみなさんに手にとっていただき,肝生検に対する理解を深めていただくとともに,日々の臨床に活用していただければと思います.どうぞよろしくお願いいたします.
2024年4月
一般社団法人 日本肝臓学会 理事長
竹原 徹郎