内容情報
テレビ朝日系『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』医療監修の現役医師が綴る
息子としての誠心、医師として描く展望
兆候、検査、施設選び、予防と対策……そして、それでも失われないもの
――家族と自分のために考えたい認知症への備え
認知症に不安を抱いている方へ
母の病と長年向き合ってきた現役医師が
自らの反省を込めて今、伝えたいこと――
「私、失敗しないので」
僕が医療監修を務めるドラマ「Doctor-X〜外科医・大門未知子〜」、主人公の決め台詞だ。この台詞には、僕が長年自分自身に言い聞かせてきた医師としての思いが反映されている。
ところが、僕は失敗した。それも、僕を心から愛しみ育ててくれた、かけがえのない母に対して。
僕の母は、23年前にアルツハイマー型認知症を発症し、現在施設で暮らしている。認知力や短期記憶力が日に日に衰え、今では僕以外の家族のことは、ほとんど誰だかわからない。
アルツハイマー型認知症の多くは、年単位で緩やかに進行する。本人は病識に乏しく、家族はそれと気づかないうちに進んでしまう場合が多い。検査や治療に取りかかるのが遅れても致し方ないと考える人もいるが、僕について言えば、致し方ないでは済まされない。徐々に進行するとはいえ、僕は自分が途方に暮れるまで、家族や主治医と忌憚なく話し合うことも、情報を共有し協力し合うことも、できなかった。
母に心の底から謝罪したい。僕はこの深い後悔や反省を、本書にまとめてみようと思った。これは母がどのように認知症を発症し、僕らがどう対処し向き合ってきたかを詳述した、23年に及ぶ一認知症患者とその家族の記録である。息子として、医師として、自らがどのような過ちを犯し、その反省から何を学び、考え、どのように行動したかを、恥をさらす覚悟で、包み隠さず書き綴ったつもりである。
言い訳になるかもしれないが、僕は認知症の専門医ではない。したがって、認知症の予防や治療についての専門的な医学情報を知りたい読者には、物足りなく感じるかもしれない。だが、医師としての経験や知識、母のケースから僕なりに得た認知症に関する知見をもとに、認知症の予防や改善に役立ちそうな内容を、できるだけ盛り込むよう努力した。介護施設の方々にも多大なるご協力をいただき、認知症に対する施設の取り組みなども紹介した。そして最後に、認知症を通して痛感させられた「死」というものについても、自分の思うところを述べさせてもらった。
本書が家族の認知症で悩む方をはじめ、医療者や介護従事者など、認知症と日々奮闘する方々、そして今後直面するかもしれないすべての方々に何らかのヒントをもたらし、深刻な認知症問題の改善に微力ながら貢献できれば幸いである。
(本書「はじめに」より)