内容情報
【本書の紹介】
譲渡所得税の取得費の算定に当たって、物件の取得時の売買契約書を紛失している場合、一律に譲渡価額の5%(概算取得費)としてよいでしょうか。実務上、取得費が不明である場合にゼロ円とするわけにもいかないため、取得時期がいつであるかにかかわらず、契約書がないということのみで5%としているケースは少なくないでしょう。
「資産の取得に要した金額」を導き出すために考えられる証拠資料の種類について検討する場合、必ずしも売買契約書によらなくとも、「取得に要した金額」を間接的に証する資料、例えば購入時の通帳や借入金の有無、当事者の領収書や帳簿書類、販売時の広告などを積み上げていくことにより合理的に取得費を推定することができます。その1つとして、市街地価格指数による土地の取得費の推定方法があります。
あくまでも市街地価格指数による推定は、実際の「取得費」ではないことからその活用を推奨するものではありませんが、課税実務においては、理論上、1つの売買について誰が計算しても譲渡所得及び税額は同じにならなければなりません。A税理士に依頼したら概算取得費に基づき譲渡所得を計算し、B税理士に依頼したら推定取得費に基づき譲渡所得を計算したのであれば、同じ物件であるにもかかわらず税額がそれぞれ異なってしまうことは課税の公平の観点から問題があるといわざるを得ません。しかし、実際は概算取得費に基づいて計算を行うケースもあれば、合理的な推定方法により推定取得費を用いるケースが生じているのも事実です。
本書が、合理的な推定価額の算出のための参考となり、より実態を表す譲渡所得の算定に繋がることを願っています。
【著者プロフィール】
風岡範哉
1978年生まれ。税理士・宅地建物取引士。相続税の申告業務を専門に従事している。
主な著作物に、『農地の納税猶予がスッキリわかる本』(税務経理協会、2021年)、『新版 グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社、2016年)、『税務調査でそこが問われる!相続税・贈与税における名義預金・名義株の税務判断』(清文社、2015 年)、主な論文に、「財産評価基本通達6項の現代的課題」第28回日税研究賞入選(2005年)、「相続税・贈与税の課税処分における理由附記」租税訴訟No.8(2015年)などがある。
【目次】
第1章 譲渡所得と取得費
第2章 取得費が不明な場合の取扱い
第3章 土地の取得費をめぐる裁判例
第4章 土地と建物の取得費をめぐる裁判例
第5章 【地域別】市街地価格指数による取得費の算定