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「結核の潜在性」をめぐる認識と実践
結核の全人口的な感染が予期された近代日本社会において、感染後の身体はいかに統御されるのか。結核史における「潜在的なもの」を主題化することで、結核の顕在的な側面に焦点があてられてきた従来の見方を再構成し、新たな視座を提示する。
近代社会において人口の多くが結核に感染するという認識が、近代化を遂行しようとしていた日本でどのように共有され、そのような認識にもとづいた結核予防がどのようにしてつくられてきたのかについては、これまで通時的な考察がなされてこなかった。それに対して本書は、近代社会の多くの人々を潜在的な結核病者とする認識およびそうした認識にもとづく身体管理の構築を、日本の結核史を構成する重要な要素として記述した。本書が試みたのは、結核史における潜在的なものの主題化であり、病気による死や苦痛が顕在化しないときをめぐる思考や実践の歴史を跡づけることである。(「終章」より)
◎目次
第一章 日本における結核研究と結核認識の体系
1 結核菌の発見と欧州の結核病論
2 日本における結核病学の黎明と、結核と近代化をめぐる問い
3 日本結核病学会の設立と結核疫学の進展
おわりに――文明と野蛮の狭間で
第二章 戦前期の通俗医学書を通じた結核発病予防の啓発
1 初期の通俗医学書と個人衛生
2 『肺病予防療養教則』と発病予防の提唱
3 結核との関係を調整する
4 結核発病予防と精神衛生
5 日本結核予防協会「結核予防小冊子」からみる発病予防の浸透
おわりに――結核菌を飼いならす
第三章 戦前・戦中期日本における結核予防と「体質」概念
1 結核と体質をめぐる通俗医学書の記述
2 産児制限、虚弱児童対策における「体質」概念の適用
3 「結核を感受しやすい体質」の存在への疑問
4 日本における体質医学の興隆と新たな「体質」概念の模索
おわりに――異常から個体差へ
第四章 公立結核療養所と「隔離」の社会的機能の追求
1 結核の塵埃感染説と喀痰の「隔離」
2 公立結核療養所の設置と「隔離」をめぐる議論
3 「療養所無用論」と公立結核療養所の役割の模索
4 「予防医学」にもとづいた結核対策への移行
おわりに――療養所から保健所へ