千年の昔、諸国を追われた流浪の民“ブン族”は、美しく豊かな地・亜里(アリ)にブンという小国を築く。紀元前800年頃、周王朝の宣王は、当時のブン族の王・麻蘭(マラン)と交戦し、ブンを攻略。亜里は周の統治下に置かれる。
春――亜里に、周の都・鎬京(コウケイ)から遣わされた一人の若者が足を踏み入れる。名を丹礼真(タン レイシン)というその太夫は、一瞬にして美しさに心を奪われ、この地に暮らす人々の力になりたいと意気込むのだった。亜里の砦で指揮を執るのは管武(カンブ)将軍ブン族との戦いで武功を立て、その名を轟かせた勇将である。丹礼真に下された命は、宣王に対して未だ敵意を燃やす者達が潜む「眩耀の谷」を見つけ出し、彼らを服従させること―――。谷に潜む者たちに和解を促し、正義に導くことが我らの務めだと語る管武将軍に心酔した丹礼真は、身命を賭して任務を全うすると誓うのだった。
しかし、眩耀の谷は一向に見つからなかった。ある日の夕暮れ時、丹礼真は不思議な幻に導かれ、森の奥深くで謎の男と出会う。男は、丹礼真が口ずさんでいた子守唄を教えて欲しいと言い出す。そうすれば、眩耀の谷に案内する、と―――。訝しく思いながらも、男についていく丹礼真。すると・・・眩い光に囲まれた、まるで天国のような光景が彼の目の前に広がる。あまりの神々しさに驚嘆し、心を震わせるが・・・丹礼真は何者かによって不意に襲われ、捕らわれてしまう。やがて意識を取り戻した彼を取り囲んでいたのは、麻蘭亡き後、瑠璃瑠の神の聖地と秘伝の漢方を守るため谷に移り住んだブン族の一派だった。彼らによると、宣王は、豊かな亜里の土地、ブン族に伝わる優れた漢方、眩耀の谷の黄金・・・その全てを奪おうとしているという。管武将軍とブン族、どちらの語ることが真なのか・・・・・・谷に捕らわれたまま一人思案する丹礼真。すると一派の中にいた盲目の女性・瞳花(トウカ)が現れ、縄を解く代わりに周にいる我が子に会う手助けをして欲しいと懇願する。麻蘭の妹である彼女は、身を守るため村の民家に預けられ、舞姫となるが、村の祭で管武将軍の目に留まり、妾として子供を産まされたのだった。これまで信じてきたもの全てが丹礼真の中で音を立てて崩れていく・・・。
真実は、そして進むべき道は、いったいどこにあるのか? 戸惑いながらも、丹礼真は瞳花を連れ、眩耀の谷を抜け出すが―――。
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