精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 "横綱級"困難ケースにしないための技と型

精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 "横綱級"困難ケースにしないための技と型

“横綱級"困難事例にしないためには技と型が必要だった

“横綱級"とは、精神疾患の重症度ではなく、対人関係的な困難さを感じさせる利用者のこと。こうした人たちへの対応の技をもっていないと、次第に利用者に対して怒りや恐怖、嫌悪感を抱いたり、あるいは支援者が何をしているのかわからなくなりコントロール不能な感覚に陥る

本書では、独立型訪問看護ステーションで困難事例とがっぷり四つに組んで支援してきたからこそ体得したさまざまな具体的な技と型を通して、「パターンで見る」ことの大切さを伝授する

在宅支援に入る際に必ず知っておくべきイロハのイ。はじめて精神科ケアに足を踏み入れる人、特に地域で実践しようとする人の必読本!
【本書「はじめに」より】本書は、精神疾患を持つ人を病院以外の場所で支援する、初心者からベテランまでを含むすべての人に向けて書きました。私は精神科訪問看護の管理職をしていることもあり、訪問看護につながるか否かがわからない段階でも、支援者や家族から相談を受けることがあります。その際に「ちょっと問題が入り組んでいて、横綱級の方なんですけどね……」「うちの子は他の人と違って超ド級なんですけど……」といった前置きが付いていることがあります。それらの前置きからは、当該のケースたちを「手を焼かせる」「話が通じない感がある」「圧迫感を与えてくる」「要求が強い」「要求がわかりにくい」「手に負えない」と捉えていることがわかります。そして支援する側が「恐怖や怒り、嫌悪感」を抱いたり、「何を支援しているのかわからなく」なったり、「達成感が得られなく」なったりと、収拾をつけられない状態になっていることも伝わってきます。しかし一方の当事者たちに実際に話を聞いてみると、周りの人に対して大変な思いをさせたいなどと思っている人はいないのです。どちらかというと、どうにもならない状況を打破しようと試行錯誤を繰り返している人のほうが多いのです。ではなぜ、周りの人はその人を「難しい人」「超ド級」と感じるのでしょう。それは、この本のなかでいろんなケースを挙げながら種明かししていきたいと思うのですが、私の経験上1つ言えることは、横綱級と言われる人たちはエネルギー水準が高いことが多いのです。「病気をもちながら地域で生活するのがしんどい。どうにかしたい」と、すごく高いエネルギーをもって試行錯誤を繰り返している人たちなのです。彼らの言動をそこのように理解せず、本当の意味でちゃんと捉えないでいると、本人はそのエネルギーの使いどころがわからなくて、「お前らが悪いんやあっ! 」となる。ですから、最初に出会う場面から、私たち支援者が何をする者なのかという説明をするのが重要です。「私たちがあなたをよくするんじゃありません。私たちを活用するのはあなたなんですよ」という説明をしておく必要があります。どうにかしたいというエネルギーの高さを、「自分がどうにかする」という方向に向けられれば、すごくいい利用者さんになり、卒業も早くなります。かくいう私も、かつてはどうしていいかわからず悩んだ経験があります。「私がなんとかしなければならない」という考えにとらわれて、本人の訴えに振り回された経験もあります。だから、支援する人たちが「横綱級」「超ド級」と感じるケースのことがわかるのです。そう考えると、みんなが横綱級困難ケースだと感じているものは、そのまま「横綱級ケース」と呼ばせてもらうことにして、その代わり、私自身はもうどんなケースも横綱級だと感じることはなくなりましたので、それがなぜなのかという理由と、相手を横綱級にしないための技と型を伝授する1冊にしたいと考えました。読者の皆さんが本書を読み終わり、行動に移した時から、横綱級ケースは横綱級ケースではなくなります。技と型を使いこなす支援者が増えていけば、横綱級ケースという言葉が世の中から消え、本書も役目を終えるのではないかと思っています。