【本書の特徴】
航空交通管理は, 航空機の運航において不可欠な存在であり, きわめて重要な学術・研究分野です。将来的に, 航空輸送の需要は増大すると予測されており, さらには無人航空機や「空飛ぶクルマ」のようなさまざまな形態の運航が関わることも予想されています。一方で, 世界的にもまだ新しい分野であるため, その基盤となる知識体系をまとめた羅針盤となる専門書になるよう, 本書を執筆しました。
本書では, 航空交通管理をハードウェア, ソフトウェアだけでなく, 航空機の運航に関わるさまざまなプレーヤを含む人間社会のような, 多様な要素から構成される社会技術システムと捉え, その成り立ちと現状, システム設計と評価に関わる研究開発, 社会実装に至るプロセスと課題を概観して論じます。
【構成と読みかた】
本書は, 著者が東京大学大学院工学系研究科で担当している「航空交通管理特論」の講義ノートを編集した教科書です。講義を開始した当初は, 航空宇宙工学を専攻する大学院生を受講対象に想定しましたが, 思いがけず, 理系分野の他専攻だけでなく, 法学や経済学などを専攻する学生も受講しています。そこで本書は, さまざまな専門分野の読者を想定し, 構成と読み方に工夫を凝らしました。
第1〜第6章を第I編,第7〜第10章を第II編と整理しています。
第I編「航空交通管理システムの成り立ち」各章の内容は以下のとおりです。
第1章: 1903 年のライトフライヤー号初飛行から今日の航空交通管理に至る歴史と,将来の航空交通管理システムの展望
第2,第3章: 航空交通管理システムの理解に必要な最小限の専門知識
第4章: 航空交通における航空機運動の理解を深めるための,航空機の力学モデルと誘導制御則
第5章: 複数の航空機からなる航空交通流を模擬する数理モデルの解説
第6章: 航空交通管理システムの設計と,社会実装に向けた評価方法
本分野の基礎知識を有する読者は,第I編を読み飛ばして,第II編に進んでください。第II編「新しい航空機運航と航空交通管理システム」はおもに著者が携わった研究開発を中心にした内容であり,各章の内容は以下のとおりです。
第7,第8 章: 新しい航空交通管理システムの代表例として,航空機の自律飛行と,大規模空港における航空機の到着・出発・空港面の航空交通の効率運用を支援するシステムの紹介
第9章: 燃料消費量の削減など,航空機の運航の観点から地球環境への負荷を低減する運用の紹介
第10章: ドローンなどのさまざまな形態の無人機について,飛行リスクを最小にする運用概念
このように,分野のすべてを一冊に盛り込むことこそできませんが,分野全体を見渡せる構成にしました。本書で取り上げたキーワードと引用・参考文献を起点に,読者のさらなる知的探求に繋げていただくこと, そして本書が, 航空交通管理における学際的発展と新規開拓に役立つことを願っております。
※本データはこの商品が発売された時点の情報です。