人間にとって聴覚とは、環境を把握し、コミュニケーションを成り立たせるために欠かせない情報処理機構であるとともに、感情に直結する感覚世界を構成する重要な要素でもある。
本書は、環境音や音声から有益な情報を抽出する情報処理システムとして聴覚をみなし、主に生理学・心理物理学的な切り口でその概要を解説する。
特に基本的な項目を12の章にわたって説明している。それぞれの章は独立に読むこともできるが、全章を相互に参照しながら読むことで、聴覚研究全体に通底する基本的な考え方や枠組みを理解できるようにした。こうして体系化された知識は、聴覚のメカニズムを知りたい、特性を知りたい、技術的な応用可能性を知りたい…いずれの読者にとっても有益であろう。
■本書が対象とする読者
・感覚・知覚の心理学・生理学、音響・音声工学に興味を持つ学生、初学者
・音響技術やオーディオ技術の設計・評価に携わるエンジニア
・聴覚障害・補償に関連する熱心な臨床関係者、技術者
■章構成と主な項目
第1章 聴覚系の生理学・解剖学
聴覚末梢、聴覚中枢
第2章 周波数分析機能
聴覚フィルタの特性、聴覚フィルタの推定とモデル、マスキング、励起パターン、周波数間統合
第3章 検出閾値・ラウドネス・強度弁別
最小可聴値、ラウドネスの特性とモデリング、ウェーバーの法則、ダイナミックレンジ
第4章 時間情報処理
時間分解能、変調スペクトル、変調フィルタバンク、時間微細構造
第5章 空間知覚・両耳聴
音像定位と音源定位、頭部伝達関数、方向知覚、距離知覚、両耳マスキング、両耳聴モデル
第6章 ピッチ
ピッチの知覚現象、知覚のモデルと生理メカニズム、心理物理学と音楽
第7章 知覚体制化
聴覚情景分析、同時的群化、継時的群化、知覚的補完
第8章 音色
音色の定義、音色の性質、音色を決める音の物理的特徴、音色・音質の客観評価
第9章 音声知覚
音声学の基礎、音声知覚の問題、音声知覚の頑健性、脳内メカニズム
第10章 注意
注意の諸相、カクテルパーティ効果、周波数への注意、空間的注意、聴覚物体への注意
第11章 感覚間相互作用
聴覚・視覚・触覚の空間的・時間的処理、聴覚と視覚の相互作用、聴覚と触覚の相互作用、感覚間相互作用のモデル
第12章 聴覚異常・補償技術
難聴の分類、聴覚検査、聴覚の異常、高次脳機能障害、補聴器・人工内耳
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