本書は,大学,高専で,「数値計算法」,「数値解析」と名のつく科目の教科書として書かれたものである。したがって,それ以前に学んでおくべき科目,例えば,解析学,線形代数学,プログラミング演習などの基礎学力を前提としている。また,逆に数値計算法を学ぶことがこれら科目の復習にもなり,ひいては,これら科目の理解をより一層深めることになれば,という欲張った願いもないわけではない。というのは,実際に学んだアルゴリズムをプログラミングし,計算結果を図示し,それを眺めることによって何かを学び取るということは,これら科目の講義では行われていない授業形態であるからである。
数値計算法という学問は,プログラミング演習とも数学とも異なり,一種独特のセンスが要求される分野である。プログラミング技法と数学の公式さえ知っていれば何とかなるというものでもなく,ましてや数学的な美しさや厳密性を追求するものでもない。本書の主旨は数値計算法の真髄を学び取ってもらうことである。
本書は,アルゴリズムを学んだら,必ずプログラムを提示し,そのプログラムによる計算結果を図示し,それに解説を加える,というスタイルで一貫している。プログラムはアルゴリズムを実現する手段であるから,手段としての機能を果たしていれば言語にこだわる必要はないが,どこでも使え,解説書も豊富なC言語が適切である考えた。プログラムは単なる手段に過ぎないが,それを作る過程は抽象的かつ論理的な思考力を鍛える非常に良い場でもあり,プログラミング能力がなければ,純粋な理論家は別としても,科学技術の現場では何もなしえない時世である。たかがプログラミングされどプログラミングである。本書のプログラムは比較的短いものばかりなので,是非,解読し,さらにそれを発展させ,より高度なものを作ることに挑戦していただきたい。
(「まえがき」より抜粋)
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