本巻には、絵巻物の形で伝わった物語、六作品を収める。なかでも『藤の衣物語絵巻』は、質量ともに注目すべき作品である。原物語は、山伏に身をやつした太政大臣の子息とその三人の子供たち(中納言・中宮・僧正)が、剣や笛、物の怪の言葉によってめぐりあうという、父と子の絆を軸とした物語であり、鎌倉時代に成立した物語と推定される。中宮となる女児の母は遊女であり、水辺の遊女の暮らしも描かれており興味深い。一方、白描絵の中にはおびただしい量の画中詞が書き込まれており、絵巻制作時とおぼしき室町時代の口語を反映したものとして、貴重な国語学的資料と考えられる。六作品とも初の現代語訳の試みであり、詳細な注と解説により、物語絵巻の世界を解き明かす。
※本データはこの商品が発売された時点の情報です。