道長は、一家の末っ子だった。元は最高権力者に就く立場になかった彼に訪れたのは“幸ひ”と呼ばれた天運―。兄たちを襲った死や政治的ライバルの自滅があったからこそ掴んだ頂点の座だった。だが死者や敗者、つまり他人の不幸を踏み台に極めた栄華ゆえ、道長はしばしば怨霊に取り憑かれ、病に伏した。読者は「怨霊」の存在に戸惑うかもしれないが、著者は「それを非科学的と嗤っては道長の心を覗けない」と釘をさす。では、はたして道長はどんな思いで生き、そして死んでいったのか。自身の手による『御堂関白記』や同時代の貴族による『小右記』『権記』など一級資料のほか、『紫式部日記』『枕草子』など女房たちの実録、道長の死後に成長した『栄花物語』『大鏡』など歴史物語もひもときながら、一人の人間の心の“ものがたり”を照らしていく。
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