禽眼圖 歌集 / 楠誓英/著
片側を闇にのまれてそよぐ樹を観ればかつてのわたくしならん<br /><br />楠誓英の歌は片側の闇を何かに捧げている。それを神と言ってもいいし、生の根源的な苦と言ってもいいだろう。闇は光に先立つ。<br />だが、一首ののちに〈わたくし〉は自由を得て沈黙する。夜空を渡る鳥たちのように、存在そのものがおそらくは光の言葉となって。<br />水原紫苑<br /><br /> <br /><br />【五首選】<br />木の下の暗がりのなか雨をみる禽(きん)のまなこになりゆく真昼<br />薄明をくぐりて眠るわがからだ枕の下を魚(うを)が泳ぎぬ<br />ことのはの手前によこたふ幽暗よやまは深々とうずくまりをり<br />朗読の声の途切れて右耳からざんと抜けゆく白き両翼<br />透明な傘ゆゑ君の両肩は灯にさらされて夜に沈みぬ<br>楠誓英/著
書肆 侃侃房
2020年01月
キンガンズ カシユウ ゲンダイ カジン シリ?ズ 28
クスノキ,セイエイ
現代歌人シリーズ 28/