日本の近代猪瀬直樹著作集 9 / 猪瀬直樹/著

誰もが知っている名曲を生んだ二人の男の運命を追いながら、背景にあった明治という時代の若々しい空気を伝える。三番の歌詞にある「こころざし」という言葉の持つ崇高さこそ、今の日本が失った故郷そのものである。文部省唱歌「故郷(ふるさと)」誕生の秘められたドラマ <br><br> 長野県内の小学校教師だった国文学者・高野辰之は、向学心に燃えて故郷を飛び出したものの、志を果たせず文部省の下級官吏になっていた。作曲家・岡野貞一は鳥取県の没落士族の家に生まれ、飢餓線上をさまよったがやがてキリスト教会に引き取られて賛美歌と出会い、その後東京音楽学校に入学、さらに母校で教鞭をとっていた。「文部省唱歌」として広く知られている「故郷」の他「春がきた」「春の小川」「朧月夜」はこのコンビによる作品である。この二人に加え、ミス上海、シルクロード探検隊といった二人をとりまく絢爛たる群像を追いながら、私利私欲だけでは前に進めないときがあった明治という時代の「夢」を浮き彫りにしていく。<br>