紫式部の実像 稀代の文才を育てた王朝サロンを明かす / 伊井春樹

私は、紫式部と具平親王との関係が気になって調べ、その生涯をたどることにしたのが、本書を書くきっかけとなった。二人は血縁関係にあるだけではなく、父為時は長く具平親王の家司として仕え、おじの為頼は、具平親王や藤原公任らとも強い友情関係で結ばれていた。すると、具平親王や公任は、若いころの紫式部を知っていたはずで、深いかかわりが想像されてくる。紫式部は父に伴われて具平親王邸に出入りし、漢籍とは異なる多様な知識を吸収し、物語にも目覚めたのではないか。<br /> 具平親王は六条の宮と称され、その邸宅は「桃花閣」とも「千種殿」とも呼ばれ、庭には季節ごとの草花が植えられていた。文人たちが集まっての詩歌の会も催されており、紫式部は身近に見聞きもしていたことであろう。このようにたどると、光源氏の六条院のモデルになったのではないかと思われ、紫上の春の御殿や秋好中宮の秋の御殿も連想されてくる。新しい視点として、注目される。(「はじめに」より)<br>伊井春樹
朝日新聞出版
2024年02月
ムラサキシキブ ノ ジツゾウ
イイ ハルキ
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