著者名:
川西裕也 出版社名:
九州大学出版会シリーズ名等:
九州大学人文学叢書 5
朝鮮中近世(おおむね高麗・朝鮮時代に相当/10世紀初から19世紀末)における重大な変革期のひとつとして,高麗が事元(モンゴルへの藩属)した13世紀半ばから,朝鮮王朝の基礎が整えられる15世紀初までの期間が挙げられる。「高麗事元期」「朝鮮初期」と称されるこの時期には,王氏高麗から李氏朝鮮への易姓革命が起こり,政治・社会・文化の各方面で深甚な変化が生じている。この影響は,当然,文書制度にも及んでおり,文書の有する様々な要素が大きく変貌を遂げた。このように,高麗事元期から朝鮮初期にいたる約二百年間は,朝鮮古文書の画期をなす重要な時期であるが,史料の制約からか,既往の研究では,この時期の文書に対する理解がそれほど深められてこなかった。
こうした朝鮮古文書学の研究状況に鑑み,本書では高麗事元期から朝鮮初期の任命文書をとりあげ,文書の性格を理解する上で最も基礎的な要素である,体系・体式・機能について検討することにした。任命文書は,他の種類の文書に比べて事例数が多く,通時的研究に格好の対象である。また,任命文書は王命のもとに作成・発給されるため,その文面は,王朝政府の権力関係や王の権威,為政者の政治思想をよく反映している。それゆえ,史料が少なく不明な部分が多い,当該時期の国家の制度や思想を考察する上で,非常に貴重な材料となるのである。
本書では,上に述べた問題関心のもと,高麗事元期から朝鮮初期における任命文書の体系・体式・機能を,新たな史料と分析方法に基づいて可能な限り深く掘り下げ,それによって,朝鮮中近世の任命文書制度の歴史的変遷を展望することを試みる。加えて,東アジア諸勢力(元・明・女真)との関係にも注意を払いつつ,当該時期における高麗・朝鮮王朝の制度や思想の解明に取り組むことにしたい。
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